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なんでラムなの?と訊かれる

「なんでラムなの?」


最近、頭の中をよく巡っている言葉でもあり、そもそも南青山でラムを飲んでもらうようになってから、とにかくよく訊かれる言葉。
皆さんに訊かれるその答えは、まさに僕のラム酒への入り口の話。
営業中だと「ラムが好きなんですよねぇ。」なんてザックリな返答しか出来ない事もよくあるから、よりたくさんの人にラム酒を楽しんでもらいたいという想いも込めて、僕のラム酒との出会いを少し振り返ってみる。

ってこの調子で始まると、絶対長くなるからまず結論から。

「ウイスキーを覚えるはずが、僕はラムに恋をした。なぜなら僕は酒が弱かった。」

20代前半、とあるダイニングバーでバーテンダーという仕事を覚え始めたものの、楽しかった半面、カジュアルな雰囲気の中で、なかなか酒の世界の奥行きに触れる感覚になれず、学生の頃から馴染みのあった街、吉祥寺にあるバーの門を叩いたのが、ラム酒との出会いのきっかけになる。

重厚な扉、精悍なバックバー。長いカウンターに薄暗い照明。これこそが青二才がイメージした通りの「バー」。飛び込みで面接を受けた。
「酒は強いの?」
面接はこの質問で始まり、この質問で終わった。
「弱いです。」
そう答えるには少しの時間と、勇気が必要だった。

不思議なことに、僕は酒が弱いという事で採用され、憧れの「バー」で翌日から働き始める。
数年の実務経験はあったものの、同じ業界でありながら全く別世界のカウンター。
自分よりも年を重ねた酒達、見たこともないようなボトル。所狭しと並ぶ酒棚から威圧感さえ感じ、立ち尽くしたのを今でも時折思い出す。
 
初日の営業終了後から始まったカリキュラム。毎晩3種類ずつ、全ての酒をテイスティングさせてもらった。
そう、この時、
酒の弱い僕に、マスターがまず最初に叩き込んだのがラムだった。
 
テイスティンググラスに注がれる琥珀色の酒。立ち昇る優しい香り。キャラメル、バニラ、カカオ、スパイス…。心地よい甘さは高いアルコール度数を柔らかく包み込む。
甘口のラム、スパイスドラム、ドライなラム、ホワイトラム。
ブランデー、カルヴァドス、グラッパ。
シェリー樽で熟成させたシングルモルト、スムースなモルト、ブレンデッド、バーボン、ピートの効いたスモーキーなモルト、カスクストレングス。
様々なボトラーズのモルト。

カリキュラムは回を増すごとに、徐々にクセや度数が増して行く仕組みだった。
下戸だった僕も、すっかり蒸留酒に慣れ、好きになっていった。

マスターの「下戸から始めるHOW TO蒸留酒」講座は秀逸だったし、入り口として僕を蒸留酒に引き込んでくれたラムは、僕にとって特別な酒となった。一口飲んでハマる、一目惚れならぬ一口惚れ。

2018、
残念ながら、ラム酒に恋する人は、他の酒に恋する人に比べるとまだまだ少ない。
最も多くの国々で造られ、最も多くの銘柄を有する酒、ラム。その数はそのままラム酒の持つ多様な側面を表していて、それはより多くの人の嗜好に寄り添う可能性を示している。

少しでも多くの方の、ラム酒への入り口になりたい。
それがTAKANOHAの想いです。